« FDKの長寿命電池「HR-AAULT」(1000mAh) 800cyc目 | トップページ | トラ技の目次検索 『サーミスタ』 »

2023年3月14日 (火)

アンテナの話は続く「電子立国 日本を育てた男-八木秀次と独創者たち」

館内閲覧用だった? 「アンテナのある風景」「電子管の歴史」
この次は、これ。(図書館へのリクエスト)
八木アンテナの八木秀次さんの本。

「電子立国 日本を育てた男-八木秀次と独創者たち」

Yy1

著者の松尾博志さんがすごい。
よくまぁ八木さんの歴史を調べられたものです。
「八木・宇田アンテナ」のいきさつもみな書かれています。


|

« FDKの長寿命電池「HR-AAULT」(1000mAh) 800cyc目 | トップページ | トラ技の目次検索 『サーミスタ』 »

」カテゴリの記事

サイエンス」カテゴリの記事

技術史」カテゴリの記事

コメント

こんばんわ.お世話になっております.
 私にとって思い入れの深い1冊です.当時何度も読み返しました.日本の電子工学史に残る名著と存じます.
 本書に登場する八木秀次さんといい,東北大の設立経緯と足尾鉱毒事件の関わりとか,阪大の設立と関西財界の関わり,八木秀次さんの出生から八木・宇田アンテナ発明の経緯,晩年までが時代背景や社会情勢とともに整然と,また生き生きとつづられていて興味が尽きない内容です.個人的には10年に1度ぐらい邂逅するレベルの名著だと思っています.本書が発売されたのは1992年です.今ならインターネットで歴史的な事実を手軽に調べることができますが,それが不可能だった時代に,よくぞ多くの内容を調べ上げ,1冊にまとめ上げたものだと感心いたします.本書の版元は文藝春秋社であり,執筆者のみならず一流の編集/制作担当者が尽力されたものと思います.
 本書を特徴付けるのは,その登場人物の多さかもしれません.一部を列挙すると,湯川秀樹,バルクハウゼン,フレミング,本多光太郎,宇田新一郎,長岡半太郎,古賀一策,抜山平一,西澤潤一,松前重義,原 敬らです.

 私は興味深い本については,読み進めながらhp200LXに登場人物や要点などを記録して整理していきます.すると登場人物たちの位置づけや関連性がはっきりしてきて,自然に記憶に焼き付いていき,後日 本書に登場する関係者の話題などに触れると,記憶の中の点と点が結びついて線となり,さらにそれらが時系列で動くと立体化する…そんな感覚を味わえるようになりました.
 八木秀次さんの師である長岡半太郎さんが教導した古賀一策さんのエピソードも興味深いです.古賀一策さんは,戦前に若くして世界初の周波数逓降回路(今日の分周回路)などの斬新な回路を立て続けに考案しましたが,それらを見ていた長岡半太郎さんは「研究者たるもの目先の発明などに時間を割くものではなく,一生をかけて達成するような大きなテーマに向けて邁進せよ」とたしなめます.その後,古賀一策さんは今日ATカットとして知られる温度係数が零となる水晶振動子のカット角度を数学的に発見します.同時期に明電舎のエンジニアも同じ角度を実験的に発見しており特許論争に発展します.古賀さんは数学的に振動方程式を解いて,もう一つの零温度係数カット(BTカット)も発見しています.ちなみにATカットとかBTカットというのは,古賀さんの論文を読んで驚いたベル研の研究者たちが追試験して検証発表した論文における名称です.古賀論文では,それぞれR1カット,R2カットと呼ばれていました.Rはreferenceの意味らしいです.これらの礎があって,日本の水晶振動子業界は世界トップレベルと世界トップシェアを現在も維持しているようです.1950年代のJST(日本標準時)は古賀一策さんが作った水晶時計(KQシリーズ)をもとに計時していたそうです.
 渡辺寧さんのもとで苦心しながら光ファイバーや発光ダイオードを発明した西澤潤一さんのエピソードは,当時の日本の学会の縮図が垣間見える感じがしました.
 八木秀次さんが東北大に築いた実験第一主義の体制を,その教えを受けた抜山平一さんが理論第一主義に変えて瓦解させるあたりの確執とか,その確執を解くために(無装荷ケーブルの発明者で東海大学の創立者で武道館を建立した)松前重義さんが奔走するとかエピソードに事欠きません.

 本書を読了して10年以上が経ったある日,ひょんなきっかけで私が松尾博さんから原稿を取り立てる役を仰せつかり,帰りしなにご本人から本書のサイン本をご恵贈いただきました.(^^)

投稿: oxy | 2023年3月14日 (火) 20時39分

oxyさんの解説を参考にして図書館の本を検索したら、興味あるのがいっぱい出てきました。

投稿: 居酒屋ガレージ店主(JH3DBO) | 2023年3月19日 (日) 11時08分

こんばんわ,レスありがとうございます.
 松尾博さんのご著書として思い出した本があります.すでにお読みやもしれませんが,「アンテナを創る男たち - アンテナ技研株式会社25年史」です.こちらは1993年12月1日発行であり,「八木秀次と独創者たち」が1992年11月発行なので,取材・執筆時期は重なっています.本書の前書きにはアンテナ技研の創業者である佐藤源貞さんが,松尾博さんへ執筆を依頼した由縁,そして通常の社史とは違い,松尾さんは人間を中心とする読み物としてまとめあげたことが記されています.
 本書は社内および関係者向けの社史として制作されたもので,もともと販売予定はなかったそうです.しかし,各方面からのリクエストがあって,書籍として販売されたものです.登場人物や社名は実名であり,日本のアンテナ業界を巡る人物模様や企業と世間の関わりなどが歴史的に語られていて興味深いノンフィクションです.アンテナ技研は,八木秀次さんの元で直接に教導を受けた佐藤源貞さんによって1960年12月1日に設立された企業です.佐藤さんが幼少の頃は仙台市内にあった八木さんのご自宅がご近所だったので,1年年下でやはりご近所だった西澤潤一さんと八木邸の庭に入りこんでチャンバラごっこをして遊んでいたそうです.その後,東北大で直接に薫陶を受け,八木アンテナ創業時(1966年のやはり12月1日)には,初代研究所長を仰せつかったそうです.研究所といっても雨漏りのするトタン屋根の建物で,研究員は自分だけというスタートだったそうです.その後,自分の会社であるアンテナ技研を創立するため登記を済ませた直後に,上智大学が工学部を新設したものの教授捜しに難渋しており,当時の学長から教授就任を請われて断れず,二足の草鞋を履きながら会社をスタートしたのだそうです.
 アンテナ技研の業務は研究開発が主であり,量産して販売されるときは,社名が表にでてこないので知名度は低いのですが,列車無線,タクシー無線,携帯電話基地局,航空管制設備などのアンテナとして私たちがよく目にする製品を手がけています.
 本書の前書きには「朋友
 本書には改訂版として「知的遺産が生きている - アンテナを創る男たち - アンテナ技研33年史」(1999年発行)もありますが,こちらは登場人物や社名が伏せ字になっていているのが惜しいところです.

 村田製作所の創業45周年を記念して1990年1月に発行された「驚異のチタバリ - 世紀の新材料・新技術」という書籍も,もとは販売予定がなかったのを,関係者の好評を受けて市販したようです.当時,書店店頭で立ち読みしましたが,4,800円は高くて買えませんでした.
 真空管時代の軍用無線機とか業務用無線機には,竹輪のような円筒形のコンデンサが多数使われていました.それがチタン酸バリウム(通称「チタバリ」)を使ったコンデンサであり,東京の河端製作所が商品名「チタコン」として戦前から発売していました.当時は小型で高性能ながら,極めて高価な部品であり,10個で陸軍少尉の月給に相当したそうです.それを戦後間もない頃に,村田明さんが真似して作り,オリジナルに対して「チタコンド」と称して売り出したのが村田製作所の始まりだそうです.
 その後,村田製作所は量産性に優れた円盤状のディスク・セラミック・コンデンサを発売します.セラミックスを円盤状に成型するのには錠剤用を転用したそうです.市販の装置を応用して,早く安く目的を達成したのはさすがだと思います.
 トランジスタ・ラジオが世界中で爆発的に売れるようになって,米国クレバイト社が455kHzのセラミック・フィルターの開発に成功して売り出します.村田製作所でも開発に成功して発売しました.FM放送が始まるとトランジスタ・ラジオもFM対応になって,10.7MHzのIFフィルタが求められますが,クレバイト社はセラミックスでは実現不可能として開発を投げ出してしまいます.一方,村田製作所の藤島さんは,東京大学の尾上守夫さんが振動解析した理論を元に10.7MHzのセラミック・フィルターの試作に成功します.その報せを受けたソニーは月産3万個を発注しますが,村田製作所では歩留まりが悪く,1日50個,月産1500個しか良品を納品できず連日徹夜で対応したそうです.そんななか同社の豊島功さんが実験中の失敗から,ロスト・ワックス法による全く新しいパッケージを考案して歩留まりも改善します.それはSFE10.7MAなどとして知られる廉価ながら小型高性能な3端子のセラミック・フィルターです.これはカラーテレビの音声IFである4.5MHz用としてもヒットしました.セラミック・フィルターは商品名「セラフィル」となって全世界でヒットしました.その後,当時全盛だったアナログ無線機のFM復調用にセラミック・レゾネータが使われて無調整検波回路が実現しました.また,マイコンの発振子としてセラミック振動子「セラロック」に応用され,現在も私たちの身の回りで大量に使われていますね.
 若い頃は振動の研究なんて何の役に立つのかわかりませんでしたが,こういった製品となって生活に寄与していることにしみじみ感心いたします.
 絶縁体の分野では,IEEEなどの国際学会への日本からの投稿数が永年にわたってトップだそうです.絶縁体なんて,マイナーな分野だからたまたまトップなのかと思いきや,セラミックスなどの誘電体の分野のことだそうで,つまりセラミックス製品に関する分野なのでした.水晶と同様に日本の得意分野らしいです.(^^)

投稿: oxy | 2023年3月27日 (月) 21時10分

oxyさんの解説を読みますと、「本を読んだ気分」になってしまいます。

投稿: 居酒屋ガレージ店主(JH3DBO) | 2023年3月30日 (木) 08時47分

京都の老舗会社と言えば、「松風」というところが歯医者関連で有名だとか。(女房が歯科衛生士なもんで)
セラミックも絡むので、「球」など電子回路関連の本で名が出てきた記憶が。

投稿: 居酒屋ガレージ店主(JH3DBO) | 2023年3月30日 (木) 08時56分

松風のピンセットがありました。
http://igarage.cocolog-nifty.com/blog/2017/12/post-6dfb.html
京セラとのつながりがコメント欄に記されています。

投稿: 居酒屋ガレージ店主(JH3DBO) | 2023年3月30日 (木) 15時25分

店主さま,
 レスありがとうございます.長文の書き込みで失礼いたしました(^^; 
 稲盛和夫さんが就職した松風工業は,京都の老舗製陶会社の一部だったのですね!
 長波17kHzの依佐美送信所は解体されてしまいまいたが,鉄塔基部の高圧絶縁碍子は現地に残されていて,"Shofu"と書いてあったように思います.

投稿: oxy | 2023年4月 4日 (火) 10時38分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« FDKの長寿命電池「HR-AAULT」(1000mAh) 800cyc目 | トップページ | トラ技の目次検索 『サーミスタ』 »