« ワニロじゃなくってミノムシクリップ、断線間際で発見 | トップページ | JK-FF 4027 使用例:ロジックICを使ったエレクトロニックキーヤー »

2021年9月11日 (土)

単安定マルチバイブレータ 74123、74423、4538(TC4013を追記)

修理品の回路にモノマルチ「74HC423」が使われて
いたので、昔話をあれこれと。

リトリガブル・モノマルチの代表が「74123」。
プリフィックスが74LSになったり74HCになったり
しますが、基本動作は同じ。
そして、4000番シリーズのCMOSになると
4528」とその高精度版の「4538」。
Mm_20210911133101
  ※C側をGNDにつなぐや大容量コンデンサの
   時は抵抗やダイオードをかましておくなど
   あれこれと注意点もあります。

タイマーICの有名どころは「555」なんですが、
これはリトリガブルじゃありません。
そしてトリガー入力がエッジじゃなくレベル
です。
入力パルスの↑・↓エッジを検出してという
動作に555は不向きです。

さて、74123ですが、「リセット入力」を使うと
思わぬ失敗に出くわすことがあるのです。
  ※それを同ピン配列で解消したのが「74423
   なんです。

この論理表を見てもらいましょう。
423a
74123(赤)74423(青)の「1~5」は同じですが、
74123の「6」のところ、怖い動作が記されています。

リセット入力がLの時(つまりリセット中)にA、B入力が
有効エッジを検出した状態で待機していると、
リセット入力の解除(L→H、つまり↑エッジ発生)で
トリガー出力が出てしまうのです。
リセットでパルス出力を止めたはずなのに、
リセットの解除でパルスが発生してしまうという
理不尽な仕様です。

74423や4538ではこの条件が無くなっていますので
安心してリセットを使うことが可能です。

※4538の入力トリガー条件は423と異なっています。
 ↑あるいは↓エッジを検出するとき、
 反対側をどうしておくかというのが異なります。
4538

さらに。4538にも不安があります。
異なるメーカーの等価回路を示します。

4538a
4538b

上の図は「Aだけシュミット入力」と。
しかし、下の図は「AもBもシュミット入力」と。
上の図の方の電気的特性を見ると、Aクロックパルスの
Rise/Fall時間は「無制限=なまっていてもok」と記され
ていますがB側は最大値が規定されていて、
「なまっている信号は×」となっています。

両方ともシュミット入力ならこの制限はなくなります。
74HC123、74HC423では「A、B入力ともシュミットだ」と
記されています。
  (しかし、なまった波形を入れるときは
   ICのスペックを確かめるように)

このあたり、トランジスタ技術1992年9月号の特集
『汎用デバイス活用法 再点検
 タイマIC&クロック・ジェネレータ編
 555,74HC123,SPG8640/8650を解説』著者 宮崎仁さん
に解説されています。


※ついでに東芝「TC4013」の話も。
東芝製「D type FF TC4013」の初期型は、他メーカの
4000番シリーズと動きが異なったのです。
  (リセットとセットが同時にHになった時の出力)

これが昔のデータシート(紙のをスキャン)。
13a_20210911134301

こちらが今の。=他メーカも
13b

昔の東芝、
_
Q出力にご注目。
Q出力を単純に反転して出力しています。
つまり
 SET、RESETともHになった時は
リセットが優先されてQがLで、
_
Qはその反転でHになるのです。

それが新しいデータシートでは
SET、RESETともHになった時は両方の出力がHに
なるのです。
これが他社での標準。

東芝の4013が使われている昔の回路の修理では、
「SET RESET」端子がどうなっているかを見て
おかないとうまく修理できないことがあります。

4013をD-FFとしてではなく、RS-FFとして
使った回路で「東芝特有の出力を期待して」
動かしている設計に遭遇したことがあります。

※TTLのD-FF 7474では、クリアとプリセット
 両方がL(Lアクティブ)になると両方の出力がH
 になります。



|

« ワニロじゃなくってミノムシクリップ、断線間際で発見 | トップページ | JK-FF 4027 使用例:ロジックICを使ったエレクトロニックキーヤー »

技術史」カテゴリの記事

コメント

以前、ジャンク屋さんで安売りしていた「TC4013BAP」を購入したことがあります。
ネットでデータシートを探しても「TC4013BP」ばかりで見つからなかったのですが、次のブログで解説されていました。
https://yaneno-suzume.at.webry.info/201010/article_1.html
これで「TC4013BAP」はリセット優先なのはわかったのですが、何故そのようなものを製造したのかはわかりませんでした。
今回のblogから「東芝特有の出力を期待して」使っていたお客さん向けのものだったのかな、と想像しております。

投稿: ARO | 2021年9月12日 (日) 19時32分

参考に上げた旧版TC4013の図は1984年9月の「東芝CMOSスタンダードシリーズ個別規格編第6版」でした。
東芝において、いつごろ「SET/RESET」の挙動が変更(他社標準に)になったのかは不明です。

D-FFの親戚、JK-FFの「TC4027」でも、東芝の規格表では4013と同様の動きになっています。
「SET/RESET」を両方Hにすると、リセット優先で「Q=L、/Q=H」となるとのこと。
他社の標準は「Q=H、/Q=H」です。
  ※東芝4027では痛い目には遭遇したことはありません。
   JK-FFがそんな頻繁に使うロジックICじゃないからかなぁ。
   東芝4013を使った回路で「なにこれっ?」だったんで
   記憶に残っているのです。

4013と4027、東芝がなぜこのような論理にしていたのか・・・謎です。

投稿: 居酒屋ガレージ店主(JH3DBO) | 2021年9月13日 (月) 08時53分

1992年の東芝CMOSデータブックを発掘。
すると・・・4013、4027とも、リセット優先ではなく標準のロジックになっていました。

投稿: 居酒屋ガレージ店主(JH3DBO) | 2021年9月13日 (月) 09時10分

JK-FF使用例。
http://act-ele.c.ooco.jp/blogroot/igarage/article/439.html

投稿: 居酒屋ガレージ店主(JH3DBO) | 2021年9月13日 (月) 10時35分

4013、4027使用例
http://igarage.cocolog-nifty.com/blog/2021/09/post-ab4e0d.html

投稿: 居酒屋ガレージ店主(JH3DBO) | 2021年9月13日 (月) 11時05分

http://igarage.cocolog-nifty.com/blog/2022/02/post-7ecae1.html
手元にあった4538と74HC123、トリガーミスする様子を見てみました。

投稿: 居酒屋ガレージ日記 | 2022年2月 9日 (水) 16時42分

単安定マルチバイブレータ 「74HC423」の挙動
http://igarage.cocolog-nifty.com/blog/2023/07/post-f44866.html
東芝製のでチェック。
↓エッジが×でした。

投稿: 居酒屋ガレージ店主(JH3DBO) | 2023年7月12日 (水) 09時18分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ワニロじゃなくってミノムシクリップ、断線間際で発見 | トップページ | JK-FF 4027 使用例:ロジックICを使ったエレクトロニックキーヤー »